9月28日(土)の午後、『うみのたからもの』の作者たかおゆうこさんをお迎えして、ギャラリートークを開催いたしました。
取材のお話を中心に、どのように絵本になっていったのかを、講談社の担当編集者の長岡香織さんにも加わっていただきながらお話をお聞きしました。
最初に、『くるみのなかには』と『うみのたからもの』の読み聞かせから。
たかおゆうこさん(中央)と長岡香織さん(右)
講談社の編集者 長岡さんとは「イマジネーション」をテーマにした仕事をしたいと思っていると話すたかおさん。
【始まりのお話】
『くるみのなかには』は、幼い頃に硬いくるみを手にした時に「何か大切なものがこの中に詰まっているのでは」と思ったことが物語のきっかけになっていました。
「小さい頃に好きだったもの、集めていたものを信じている」と話すたかおさん、そこにはやはり何かがあるのではないかと。くるみの絵本を作ってみて、自分が想像もしていなかった作品を作ることができたこと、未来に繋がっていることを実感することができたのでした。
そして、今回の『うみのたからもの』は、小学生の頃、夏休みに家族で海水浴にでかけ、早朝の浜辺で見た桜貝が物語の始まりでした。数え切れないほどの桜貝の貝殻が打ち上げられており、その朝日に照らされ輝く美しさに感嘆し「人魚姫のつけ爪」かもしれないと思いました。それ以来、貝殻を見て様々な物語を想像したそうです。
【取材の旅の話】
2019年の宮古島から始まり、イギリス南西海岸チャーマスヘリテージコーストセンター、国内は沖縄、天草、四国、茨城、栃木、石川、福井、福島、千葉、神奈川など絵本が刊行された2023年の初めまで取材の旅は続きました。
そんな取材の旅を、画像や映像を見せていただきながら、お話しくださいました。
とくにチャーマスの海岸で貝の化石と出合ったことはたかおさんの中でも大きな出来事でした。2億年前の古生物と自分が繋がっているような感覚になりました。海を泳ぐ首長竜やアンモナイトなどを描きたいという気持ちになって帰国したそうです。その後、貝の化石の研究者加瀬友喜先生を探し、専門家のお話を聞くことができました。
化石のことを知れば知るほど絵本の中で化石のことを説明したくなってしまったのですが・・・そもそもイマジネーションの力の絵本を作りたいという初心に戻りました。そこで、貝と化石の違いは何だろうと考えた時、それは重さだと気づいたところで、想像のベクトルがかわり今の絵本となりました。
取材をすることで副産物がたくさんあったそうです。例えば、
宮古列島の大神島で見た蝶の群れ、持ち帰ることができなかった貝殻を海に投げ入れた時に波間を漂う様子を見て帆船にしたいと思ったこと、イルカウォッチングをしてイルカに親しみをもったこと、・・・
それらの一つ一つが絵本となっていきました。
2億年前の貝や生き物を調べました。
帆船の模型を作って、縄の掛け方などを研究しました。
文章もシンプルなものになっていますが、ラフの段階では、伝えたいことすべてを書き出していきました。その後、この絵本で伝えたいことは何なのかを突き詰め、削ぎ落としていきました。
「浜辺で波の音に耳を傾けるていると、生命の起源の不思議さにたどり着きます。滅びてしまった生き物に思いを馳せると残念だけど、いろんな生き物がいて多様だったからこそ生命を繋いでこられたのではないかと感じることができた」と語られました。
最後に、小さいお子さんも参加されていたので、子どもたちがだいじにしているものを大切にしてあげてほしいと語られました。たかおさんのように未来に繋がるかも知れませんね。
たかおさんと長岡さんのお話を聞き、一冊の絵本が出来上がるまで伴走する編集者さんの存在の大きさを思いました。信頼関係があってこそ、このような奥深い絵本ができたのだとわかりました。
探究心にあふれたたかおさんのお話は、どこまで広がっていくのだろうとわくわくの連続でした。なかでも、宮古列島の島で出合った「渡り蝶」のお話が、私の心の中に残りました。大神島の蝶は「アサギマダラ」ですが、レイチェル・カーソンの本の中に出てくるモナーク蝶と同じ種類とのこと。『くるみのなかには』だけでなく、『うみのたからもの』もレイチェル・カーソンの世界に繋がっているようで、さりげない絵の中にも深い意味があることを知りました。
原画が美しいのにも感動しますが、絵の奥に広がる深くて豊かな世界に感銘を受けました。
たかおゆうこさん、長岡香織さん、参加くださった皆さん、ありがとうございました。
原画展は、10月6日(日)まで。
皆様のお越しをお待ちしています。
【たかおゆうこさん在廊日】 10月5日(土)14:00〜17:00