10月14日(土)、秋晴れの午後、『あの路』(平凡社)の山本けんぞうさんといせひでこさん をお迎えしてギャラリートークを開催いたしました。
2009年に刊行された『あの路』ですが、地元や関東圏だけでなく九州や信州など遠くからお越しくださった皆さんで、会場はトークが始まる前から熱気に溢れていました。
この日は、山本けんぞうさんが進行をしてくださり、「今日は、いせワールドを深掘りして『あの路』の真髄に迫ります。」とのご挨拶。
◆まずは、いせさんからけんぞうさんとの出会いのお話から。
けんぞうさんが書かれた童話『バグダッドのモモ』を読んで感動し、著者写真を撮った娘の石井麻木さんを通して知り合われました。その後、いせさんのフランスへの取材の旅ではけんぞうさんにいつも通訳をしてもらっていました。2007年に刊行された『きみは金色の雨になる』(山本賢蔵・著 平凡社)でその文体の素晴らしさに触れ、この本の中にでてくる三本足の犬の話を取り出して絵本にしたいと思われました。
「この絵本の舞台はパリ2区のパサージュ」
テキストは、編集者とのキャッチボールのようなやり取りの中でできていきました。
絵は、ストーリーの中で心に響いたところから描いていきました。画材は真っ白いキャンバスに水彩で描くことに。最初に描いたのは三本足を探しにいく雪の中の街のシーン。
光の中の鳥、光の結晶、従兄弟が出てくる絵、ゴミ箱の下に見つけた三本足・・・描いては捨て、描いては捨ての連続でした。
「朝、窓ガラスが凍りついていくシーンなど、原画にならないとわかっていても何枚も何枚も描いていた。」「その物語の周辺は全部描かないとおさまらない。」 (いせさんの言葉)
三本足のスケッチも何枚も!
少年が三本足を抱きしめるシーンも、あらゆる角度から描いてみたけれど納得できなかった。そして、抱きしめたのは自分自身の魂だったのではないかと気づいたことで、光を抱きかかえるような絵になった。泣きながら描いていたそうです。
水たまりの中に空を見つけた少年は、初めて空を見上げることができたのです。この3場面で、この絵本の魂の部分ができました。描いているうちに背景はいらないと思ったと語るいせさん。
そして、印象的な三本足との別れのシーン。
「最後の犬の残像が自分の拠り所になる原風景である」とけんぞうさん。「立ち止まった犬の風景が心に刻まれることによって大人になっていった」とも語られました。
◆そして、スペシャルゲストの柳田邦男さんが登場し、『あの路』について語ってくださいました。
けんぞうさんの文章はキラキラと結晶が輝くような文章だと話され、印象的な文章をいくつも朗読してくださいました。
少年と三本足、三本足は自分自身の心の深いところにある苦悩や悲しみ、疎外感であって、少年は三本足を抱きしめているところで自分の心の再発見をしていると話されました。
「文章のきらめき、絵の深みで21世紀の絵本のスピリットが表現されている。」という柳田さんの言葉がこの絵本を言い得ていると納得しました。
柳田邦男さんの奥深いお話で、会場はさらに感動と熱気に包まれました。
◆柳田さんのお話の後、いせさんのテーマでもある「孤独と疎外感」についても『よだかの星』(講談社)を通して語ってくださいました。
最後は、いせさんの最新作『ピアノ』(偕成社)の紹介。
いせさんのお母様が弾いていらした古いピアノをお孫さんが弾くようになり、ピアノを好きでたまらないという姿を見てピアノの本を描きたい思いました。
一人で何かを抱えている子どもが、誰か見知らぬ人と出会うことで、何かに気づき成長していってほしい。音楽の喜びを描いた初めてのファンタジー絵本です。創作中、モーツァルトのピアノソナタ(8、11、12、13。15番)を聞きながら描いていたそうですよ 🎶
参加者の方からプレゼントされた花束を抱え、記念撮影
談笑しながらのサイン会
この日の対談は、けんぞうさんが最初におっしゃったように、いせさんの創作に対する姿勢、厳密さ、奥深さ、優しさ、切なさ、あたたかさ、豊かさなどを知ることができました。私たちが『あの路』にこれほどまで心惹かれる理由もわかったような気がしました。
どんなに苦しいことがあっても、皆さんにとっての原風景となる「あの路」があったら、乗り越えていくことができるのではないでしょうか。
大丈夫さ。
目をつむれば、あの路がある。
きみがぼくを見ている。
ぼくは歩きつづける。
改めて、この文章が心に沁みました。
【おまけのエピソード】
・いせさんが『あの路』を描き始め、基調色で悩んでいた時に「これは白い本です。白い絵を描けばよいのです。」とおっしゃった編集者(平凡社 坂下裕明さん)の言葉にも驚きました。
・『あの路』はフランス語、中国語、台湾語、韓国語で訳されているのですが、どれも「三本足のともだち」「ぼくのともだち 三本足」「男の子と三本足」「三本足といたみち」と具体的なタイトルです。日本語の『あの路』はあいまいで、誰にとってもどことでもとれる路。素敵なタイトルですね。
山本けんぞうさん、いせひでこさん 、スペシャルゲストの柳田邦男さん、ありがとうございました。
そして、参加してくださった皆さん、ありがとうございました。
原画展は、10月29日(日)まで。
【山本けんぞうさん 在廊日】
10月20日(金)14時から17時
10月22日(日)14時から17時
10月25日(水)15時から17時
10月27日(金)14時から17時
【いせひでこさん 在廊日】
10月21日(土)14時から17時
10月22日(日)14時から17時
10月29日(日)14時から17時
*追加の在廊日がわかりましたら、お知らせいたします。
皆様のお越しをお待ちしています。